幕末、日本があまりにも世界を知らなかったために起きそうになった『スイカ売り決死隊』騒動。
スイカが売れるか売れないかで日本の歴史を左右する事態になっていたかもしれない、そんな話です。
事の発端は『生麦事件』
『スイカ売り決死隊』騒動が起こったそもそもの原因は、『生麦事件（なまむぎじけん）』と呼ばれるイギリス人殺傷事件でした。
薩摩藩の実質的トップ、島津久光が今の横浜市にある生麦村を大名行列で進んでいたところ事件が発生。
近辺を観光中の乗馬したイギリス人4人が、久光率いる大名行列の正面にワーっと入り込んできました。
今で言うと、車列を作って進んでいる大統領の車に突っ込んでくる感じですね。
警護の為に行列にいた薩摩藩士は「下馬して道を譲れ！」と警告しましたが、彼らには上手く伝わらずにどんどん行列に入り込んできたので、幕府の法律『切捨御免』に従って1人（チャールズ・レノックス・リチャードソン）を斬り殺しました。
『スイカ売り決死隊』結成！
イギリス側は一人殺されているわけですから、このまま黙っているわけにはいきません。
7隻の軍艦で鹿児島湾に乗り付けます。
船に乗っているのはイギリス海軍兵達で一触即発の状態。
イギリス側は賠償金と犯人引渡しを要求しますが、薩摩藩側は「日本の法律にのっとって対処しただけだから何も悪い事してないよ」と要求を突っぱねます。
しかし、このまま膠着状態が続くことに業を煮やした久光は、奈良原喜左衛門と海江田信義という藩士2人を呼びつけます。
ちなみに、生麦事件で犠牲になったリチャードソンには、まず奈良原が切りつけ、海江田がトドメをさした、と言われています。
久光は2人に、「軍艦にいるイギリス人を皆殺しにし、7隻の船を奪って天下に薩摩の武威を示せい！」と、なんとも無茶な命令をしました。
普通なら「そんな無茶な・・・」と思うでしょうが、勇猛果敢な武士の多い薩摩藩、特に奈良原と海江田は典型的な薩摩隼人（はやと）なので、久光から直接命令されたことに感激し、約80人の決死隊を結成しました。
〔古代の隼人と精悍・勇猛な点が似ているところから〕
① 薩摩の武士。
② 鹿児島県出身の男性をいう。
しかし、決死隊を結成したものの奇襲方法に悩みます。
「どうやって軍艦を奇襲しようか、軍艦に乗りこもうとしても船上から銃撃されてしまう・・・時は8月～暑い～スイカ食べる・・・そうだ！スイカ売りに変装して上手いこと船に乗りこもう、そして、一斉に斬りこみをかけてイギリス人を皆殺しにし、軍艦を乗っ取ろう」。
ここで重要な事は、イギリス人は一般的にスイカを食べません。
日本人は暑い夏にスイカを食べるから「イギリス人もきっと食べるだろう」ということで決行された作戦。
スイカ売り（仮）達は、小船をせっせと漕いで軍艦に近づき「スイカいりませんか？美味しいですよ～」と呼びかけます。
イギリス側にも日本語を理解する人（通訳）はいましたが、標準語が混じっていない当時の純粋な薩摩弁は他の土地の日本人でも理解できなかったので、当然イギリス人に伝わるわけがありません。
船上のイギリス人は「何だこの胡散臭い集団は」と思うわけです。
当然、この作戦は失敗に終わりました。
『薩英戦争』勃発
この騒動の2日後の1863年（文久3年）7月2日、薩摩藩とイギリス海軍の間で『薩英戦争』が勃発します。
薩摩藩は、当時世界最強と言われたイギリス海軍相手に大健闘します。
| 死傷者 | |
|---|---|
| 薩摩藩 | 19人 |
| イギリス海軍 | 63人 |
イギリス海軍は弾薬や燃料が残り少なくなった事と、多数の死傷者を出した事で横浜に撤退しました。
その後、横浜で和睦の談判が開かれましたが、イギリスは『生麦事件』の加害者引渡しと賠償金を要求、薩摩藩は戦争中、イギリス艦が薩摩汽船を掠奪した件を追及、お互い歩み寄らず交渉決裂。
結局3回目の談判で以下の条件で和睦しました。
| 条件 | |
|---|---|
| 薩摩藩 | 賠償金25,000ポンドをイギリスに支払い |
| イギリス | 薩摩藩に対し軍艦購入の斡旋を約束 |
『生麦事件』の加害者引渡しについては『逃亡中』と理由をつけ、賠償金の25,000ポンドは幕府から借用して支払うも、幕府には返済せず。
イギリスは、この戦争と講和交渉で当時の日本人らしからぬ気概をもった薩摩藩士を認め、薩摩藩もイギリスの文明に驚嘆して相思相愛に。
その後、イギリスの強力なバックアップの元、薩摩藩が中心となって明治維新を達成したのです。
